近藤史恵『サクリファイス』 今週のお題「好きな小説」
今週のお題
今週のお題は「好きな小説」
うーん、本を読むのが好きだからこそ、候補がたくさんあって迷います。それでも、どうしても1冊だけ、と言われたら選ぶ小説があります。それは近藤史恵の作品『サクリファイス』です。
オリンピックすら観ないけど、面白いスポーツもの
私はスポーツ観戦に興味がありません。どのくらい興味がないかというと、先日開催されたパリオリンピックを全く観ていない程です。
「自転車競技」なんて言われても、あぁ〜なんかあるよね(思い浮かべているのは競輪)(それは違う)、といった有り様です。
しかし、それ程の無関心&無知でも大丈夫です。
『サクリファイス』では、物語を読み進めると自然に自転車競技のことが理解できます。長ったらしい説明口調でもないのに、何故こんなにもスムーズに自転車競技のことが理解できていくのか、いっそ不思議なほどです。
例えば、自転車競技で表彰されるのは個人です。レースで1位になった人が勝者の個人レースです。しかし、出場するのは複数人のチーム単位。チームの中にはエースがいて、このエースを勝たせるために、チームメイトは尽力します。自転車は空気抵抗が強いので、チームメイトは序盤から中盤はエースの前を走って上位をキープ、終盤に力を温存したエースが飛び出して1位になる――。この時、序盤〜中盤に汗をかいたチームメイトの名前はどこにも残りません。それがチームメイト、アシストという役割なんだそうです。
不思議で面白い競技ですよね。そして小説内ではこんなたらたらした説明ではなく、語りや実際のレースの中で説明されます。
自転車競技"サスペンス"
物語はこのアシストに魅力を感じた主人公・白石誓を描きます。アシストの面白さや魅力、それでも個人で実績を残したい瞬間の葛藤、チーム内の不和、エースの覚悟と犠牲――。たくさんの魅力が詰まっています。
また、この小説は「自転車競技サスペンス」です。凄惨な事件が起こります。何故そんなことが起きたのか、物語の中で謎解きもされるのですが、これが、もう……。そんなのってあり!? もっと他に方法は無かったの!? と思ってしまいます。何度読み返してもあああ……ってなります。
本作のタイトルは『サクリファイス』。サクリファイス=犠牲。自転車競技に人生を捧げた男たちの、犠牲の物語です。
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おわりに
余談ですが、著者の近藤史恵さんはたしかに読者が知らない世界を理解させるのが上手いです。歌舞伎役者の物語では梨園についてわかった気になれますし、買い物依存症の女性が主人公の話では節約大好きな私ですら「私も買い物依存症になる可能性があるのかも…」と心配になります。それ程の文才があるのですが、それにしたってこの競技自転車を理解させる文章はすごいです。
それにしても!時間が!なかった!
どの小説を選ぶか、どんな文章を書くかを頭の中でぐるぐる考えているだけであっという間に時間が過ぎ、気付けばお題切替日です。切り替わりは昼頃だったはず…!と、朝の通勤電車で頑張って書きました。おわりに、は職場の廊下で書いてます。有名作品なので既読の方も多いかもしれませんが、未読の方は是非読んでみてください!