とうつきの備忘録

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「前日譚」とはなんだろな

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2つの作品がどんな関係だったら「前日譚」と呼べるか、考えたことありますか?

 

 

はじめに

 

――大ヒット映画『×××』の前日譚『×××~10 years ago~』が遂に公開!主人公・○○の少年時代を描いた感動の物語を、ぜひ劇場でご覧ください!

 

このように使われる「前日譚(ぜんじつたん)」という言葉。

意味をネットで調べてみると、以下のように掲載されています。

前日譚 ある物語よりも前に起きていた出来事。また、小説などでそれを扱う続編。プリクエル。⇔後日談。

デジタル大辞泉(前日譚(ゼンジツタン)とは? 意味や使い方 - コトバンク

 

これまでこの解説になんの疑問も抱かなかったのですが、先日ちょっと違うぞ、という事例に出会いました。そこから考えたことにお付き合いください。

※事例を5つ挙げて、これは前日譚と言えるか?を考えるだけの記事です。なんと3500字になったので、ご興味があればお暇な時に読んでください。興味が無さそうならブラウザバックしてください。個人的にはよく書けたと思っています。

 

「前日譚」の事例の検証

凡例

  • 20歳の青年が世界を救うゲームがあります。このストーリーのゲームを『AAA』とします。
  • その青年は10歳の時に住んでいる街を救ったことがあります。このストーリーのゲームを『aaa』とします。

→主人公が10歳少年の話が小文字で『aaa』、20歳青年の話が大文字で『AAA』です。

 

一般的な「前日譚」

多くの「前日譚」はこの流れでしょう。

①まず『AAA』が発売された。その後『aaa』が発売された。

初めにゲーム『AAA』が発売されて、好評だったため主人公の少年時代を描いた『aaa』が発売される。よくある流れです。『AAA』では正義感溢れる大人の男性の主人公が、『aaa』ではまだまだ子供らしい悪ガキだったりするんです。よくあるやつです。

→この場合、のちに発売された『aaa』は前日譚と言える。

 

「前日譚」と言えるのか

では、以下の場合はどうでしょうか。

②まず『aaa』が発売された。その後『AAA』が発売された。

初めに『aaa』が発売されて、好評だったため主人公が20歳に成長した姿を描いた『AAA』が発売される。これもよくある流れです。ただ、この場合『aaa』は前日譚とは言えないでしょう。先に発売されていますし、物語も時系列に沿っていますし。これで『aaa』が前日譚と言えるなら、世の中のシリーズ物の第一巻は軒並み前日譚と言わざるを得なくなります。

 →この場合、先に発売された『aaa』は前日譚とは言えない。

 

③まず『aaa』が発売されたが全く売れなかった。その後『AAA』を発売したところ、大ヒットした。

売れなかったのに同じ主人公のゲームを作るなよ、という話ですが。『aaa』は全く売れない無名ゲームだったのに対し、『AAA』は爆発的大ヒットで社会現象になるほどの人気を博しました。

→この時、『aaa』は『AAA』の前日譚と言えるでしょうか?

世の中の人々が先に認知するのは『AAA』ですが、発売年では『aaa』の方が先。時系列が反対になっています。

意見が分かれそうですが、私は前日譚とは言えないと思います。一般的には「前作の『aaa』」と表現されるはずです。

前日譚と言っても間違いではないとも思います。ゲーム雑誌や評論家には前日譚と言う人もいそうです。ただ、ゲーム制作会社は前日譚とは言わず、前作と表現するように思うなぁ…。

 →人々が認知する順番に関わらず、先に発売されていたら前日譚とは言えない。(と思う)

 

④まず総プレイ時間が1時間の『aaa』が無料公開された。その後総プレイ時間100時間の『AAA』が発売された。

少年時代の主人公を操って1時間程プレイできるお試しモード『aaa』が無料ダウンロード可能となり、その後より長く深くプレイできる『AAA』が商品として発売される。ゲームをしないので、プレイ時間が現実味に欠けていたらすみません。『AAA』はやりこめるゲームということで。

→さて、この時、『aaa』は『AAA』の前日譚と言えるでしょうか?

『aaa』が先に公開された状況は②③と同じです。……が、私はこの場合、ギリギリ前日譚と言えると思います。

『aaa』はプレイ時間の短さや無料であることから、販促用のゲーム、『AAA』のオマケと思われます。あくまでメインはプレイ時間100時間で有料の『AAA』です。

デジタル大辞泉に以下の言葉がありました。

ある物語よりも前に起きていた出来事。また、小説などでそれを扱う続編。

この「ある物語」は、主題となりうる「メインの物語」と捉えられます。この場合、「メインの物語」はプレイ時間100時間の『AAA』です。『aaa』はあくまでオマケ、ゲームの比重として大きい『AAA』をメインに据えた時、『aaa』はそれと比較して前日譚と言えると思います。

なお、③では『AAA』が圧倒的人気でした。人気の作品は比重が重いと考えれば、人気の『AAA』が「メインの物語」で、『aaa』はそれと比較して前日譚と言ってもいいかもしれません。これが先ほど

前日譚と言っても間違いではないと思います。ゲーム雑誌や評論家には前日譚と言う人もいそうです。

と書いた理由です。一方で、ゲーム作成時点では『aaa』も『AAA』も「メインの物語」として作られたはず。同じメイン同士ならゲームの比重も同じであり、ゲーム制作会社は前日譚とは言わないとも思います。私はゲーム作成会社側に近い考えです。

 →先に公開されていても、比重に差があり、明らかにメインは後に公開された物だと分かる場合、順序に関わらず前日譚と言える。(と思う)

 

⑤まずPS3で『aaa』を発売したが売れなかった。その後PS5で『AAA』を発売したところ、大ヒットした。そのため、『aaa』をPS5でリメイク発売した。プレイ時間はすべて100時間。

込 み 入 っ て き ま し た ! ※これで最後です。

10歳の『aaa』が売れず、20歳の『AAA』がヒットしたのは③と同じ。しかしその後『aaa<リメイク版>』がハードを移して発売されました。ゲームの比重は全て100時間で同じとします。

 →この時、『aaa』は『AAA』の前日譚と言えるでしょうか?

私は……少なくとも『aaa<リメイク版>』は前日譚と言えると思います。『AAA』のヒットを受けて再版された流れからは、『AAA』をメインと据える動きが見えます。とすると、『aaa<リメイク版>』はサブ、発売もメインより後、と前日譚の要素を満たすからです。

では、最初に発売された『aaa(PS3版)』はと言いますと……『aaa<リメイク版>』より画質等々は劣っているとは言え、物語としては同じ。それなら『aaa<リメイク版>』を前日譚と言えて、『aaa(PS3版)』を前日譚と言えない理由はないかなぁ…。

 →とある作品のヒットを受けてリメイク再版された場合、初版がとある作品以前に発売されていても、初版・再版ともに前日譚と言える。(かなぁ…)

 

実際の事例

何故こんなにうだうだ考えているかと言えば、凡例⑤の『AAA』と『aaa<リメイク版>』に該当する小説に出会ってしまったからです。それは、早川耕著『プラネタリウムの外側』・『グリフォンズ・ガーデン』という2作品。

  • 『AAA』=2020年代を描いた『プラネタリウムの外側』
  • 『aaa<リメイク版>』=1990年代を描いた『グリフォンズ・ガーデン』

先に出会ったのは1990年代『グリフォンズ・ガーデン』でした。BOOKHOTEL神保町に宿泊した際、帯に書かれていたのは「『プラネタリウムの外側』の前日譚」との紹介文。

これが前日譚ならまずメインの物語を読まなくちゃ……と、2020年代を描いた『プラネタリウムの外側』を図書館で借りてきました。そうして何気なく見た著作紹介には「1992年に『グリフォンズ・ガーデン』で作家デビュー。

……え?ずーーーっと昔に『グリフォンズ・ガーデン』を書いているじゃないですか!『プラネタリウムの外側』の方が後に出版されているじゃないですか!それで『グリフォンズ・ガーデン』が前日譚、って何故!?!?

当時は凡例①②しか頭に無かったので、時系列順に出版された2作が「前日譚」と呼ばれる関係にあることが理解できなかったんですね。考えて考えて、『グリフォンズ・ガーデン』が「大幅改稿のうえ26年ぶりに文庫化」された事実を知って、それならとまた考えて……。結果的にこの2作は凡例⑤になり、それなら前日譚と言えるかなぁ、との結論に至りました。

 

おわりに

『グリフォンズ・ガーデン』は『プラネタリウムの外側』の前日譚と言えるのか。

この1月は、ずっとこの疑問が頭の片隅にあったように思います。色々なゲームのパターンを考えては悩み、なんとか結論付いたことを文章化できてすっきりしました。思ったより長くなってしまいびっくりです。

なお、ウィキペディアの「前日譚」のページを見たら、映画『スター・ウォーズ』を例として前日譚とは何かを説明していました。ただ、私が『スター・ウォーズ』を1作も観ていないので皆目わからず……。架空のゲームを想定して考えるしかありませんでした。

これ、実際の事例をもっと集めてまとめたら、言語学のレポートになりそうですね。大学時代に言語学を少し齧っていた身としては、そんなところも面白かったりして。